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12:悪夢の終わり

自己満足のチャレ小説12話目でございます。

実は11話を書いた後、すぐに書いたので、ストックしていた話だったのですが、
この話は最終話と合わせて出したいな~と思い、最終話を書ききるまで
保存してました。

ということで、今回最終話まで一気に出します。
長い間自己満足にお付き合いありがとうございました。
最後までどうか、お付き合いよろしくお願いいたします。


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その傷跡に芽吹く花
12:悪夢の終わり



「っ…、かはっ……死ぬかと、思った……」

『いや、実際のところ死んでたぜ?』
出かかった言葉を飲み込む。
こればっかりは、流石の俺にも割と笑えないジョークだった。

出血が喉の奥に残っていたのだろう。
コウは何度か咳き込んで、無様に血を吐き出すが、特に心配はなさそうだ。
無論苦しそうではあるが、単純に喉の奥へつかえていたものを吐き出しているにすぎない。
内臓から出血しているといった風ではなくて安心する。

「そりゃ…貴重な体験だったな」

ほっとしたのを悟られないよう、声を作った。
何せ、神経の大多数が通る背中をブスリといかれた重傷だ。
脊髄損傷…現実なら、たとえ助かっても一生寝たきりだったかもしれない。
勿論、現実とほとんど変わらない情報が脳に直接叩き込まれるチャレンジにおいても、
それは大体同じことだが……あまりの激痛と出血によるショックで
意識を亡くしたことが幸いしていたらしい。

間抜けなのが幸いしたな。

あっさり気を失ったのは、もともと痛み慣れしていなかったせいだろう。
コイツ自身がメディックである以上、普段なら自分の傷もすぐに塞いでしまえたはずだ。
強烈な痛みを味わう経験は、今まで一度たりとも無かったに違いない。
だが、限りなくリアルに近いこの空間で、体中が動かなくなる感覚を神経が感じ取っていたとしたら、
多分、無事では済まなかった。
運のいい奴め。


―――…ああ、でもそうなると、俺の腕はもう駄目だろうな。


利き腕だったってのに、クソ。
痛み慣れしてしまったせいか…俺の意識はしっかり保たれていて、もげた腕を認識してしまっている。
もっとも、意識が飛んでれば、今頃二人仲良く、間抜けな死亡が確定しているが。
…腕一本で済んで、安いものだと思うべきなのだろうか。

「…………」

この訓練がいかにヴァーチャルであり、現実には腕を失くしてなどいないと頭でわかっていても、
限りなくリアルに近いこの空間で、脳に直接叩き込まれた情報には抗いようがない。
腕がもげたと、俺が認識したあの瞬間。
その圧倒的な情報が、多分、リアルの腕をも殺してしまった事だろう。
こればかりは、訓練がどうの、慣れがどうので、どうにかなる問題ではなかった。

これがあるから、チャレンジは嫌なんだ。

今も大量の死人を出し続けている訓練。
アークス本部も、ヴァーチャルから得られる脳への情報量を制限してくれりゃいいものを―――…
予算がないのか、それとも死人を出しすぎた失態に、忘れたい過去として放置しているのか……
とりあえず今のところ、この訓練が改善される見込みはなさそうだった。
諦めるしかない。



「ここ、は―――…?」
「最後のインターバルだ」

徐々に意識がハッキリしだしたコウが、状況を確認するように、ゆっくりと辺りを見回す。
顔面蒼白で意識のなかったこの男を、片腕のままインターバルへ運ぶのは骨が折れた。
おかげで無駄な時間を使ってしまったわけだが、まぁ野暮は言いっこなしだ。

「そうか、最後の―――…暁、腕っ!!!」
「…るせぇな……急に騒ぐな」

ようやく今の状況を思い出したのか、コウが真っ青な顔で俺を見る。
…こりゃ傑作。
大量出血で意識が飛んでた時にも負けないほどの青さだ。

「血は止まってる。痛みもない」
「嘘をつくな! そんな簡単に血が止まるか、こんな大きな傷!」
「ここはな、ヴァーチャルなんだよ。仮想現実。わかるか? リアルとは違う。
 実際大量出血の上に過度の痛みなんかあった日にゃ、まともに動くことすらできない。
 戦闘訓練どころじゃねぇだろうが」
「それは……そうかもしれないが―――…」

コウが言葉を濁す。
不満そうな顔が、俺をジッと見つめていた。
その表情に、真っすぐ視線を返してやる。
ここで視線を逸らせば、この男はあっさり俺の強がりと、言葉の矛盾を見抜くだろう。
これくらいのポーカーフェイスを返す余裕は、俺の中に戻っていた。

「君が、そういうならそうなんだろうか……」

…なわきゃねーだろ。
やがて根負けしたのか、コウが視線を反らしてボソリとつぶやく。
その姿に、騙し切った安堵半分、あまりに単純な騙されやすさに、呆れもした。

いい歳して、疑う事も知らないのか?
それでよく医者をやっていられるな…患者なんか意図しないものも含め、嘘だらけだろうが。
…ようやくわかった。
だからお前、前線に出れねぇんだよ。
実力以前の問題だ。
俺が指揮官でも絶対出さないだろうな。

チャレンジが、俺の出まかせ通りに生ぬるい訓練だったなら、そもそも死者なんか出ていない。
第一、自分がつい先ほど、大量出血で倒れたくせに、もう忘れたのか。

ヤッパリこいつの頭の良さを評価するのはやめだ。

おめでとう、ついにお前はいいとこ無しのクソ野郎デビューだ。
たとえチャレンジを踏破してみせたとしても、前線へは行けないだろうよ。
後で俺からきっちり上に報告してやる。


…だが、そんな俺の言葉の中にも、一つだけ真実がまぎれていた。
もしかしたら、そういう一部の「本当」が、コウの判断を曇らせたのかもしれない。
―――…腕の痛みがないというのは、嘘ではなかった。

麻酔もなしに腕がもげるなんて、現実だったら激痛どころの騒ぎじゃないだろう。
確かに脳内麻薬のようなものは出ていたかもしれないが、それだけで誤魔化せる痛みではなかったはず。
いくら痛みに慣れているとはいっても、ショック死こそ免れたところで、
流石にそのレベルを耐えられたかどうかはわからない。
最悪、この後痛みで動くことすらできない可能性すらあった。
生憎と痛いのが楽しい特殊な性癖は持ち合わせていないもんで、
だから…その点だけを見れば、この状況は幸いなのかもしれない。

しかし、真面目な話、これが結構ヤバイ。

失った右腕からボタボタ流れる血は、無理やり肩をベルトで縛り上げて誤魔化せる。
最悪、もげた切り口を焼いて無理やり止血したってかまわなかった。
幸いにしてここが最後のミッションだ。
これが序盤なら途方にくれたが、最後のミッションなら、まぁなんとか持つだろう。
せいぜい血の気が引いて、身体が重くなる程度…ちょうどいいハンデと思って楽しんでやる。

だが、腕の痛みが無いってのは、すなわち完全に神経が死んだという証に他ならない。
死んだ神経は痛覚だけだろうか?

……多分、違うだろうな。

今この場で認識できる異常は痛覚以外にないものの…おそらくはこの身体、他にも不具合が出ているに違いない。
いつ、どこに弊害が出てもおかしくはなかった。
今はまだ何とか平静を保っていられるが……それも一体どこまで持つか。
状況に余裕はなさそうだ。



「―――…はぁ」

ため息が漏れる。
できることなら、この手は使いたくなかったが……俺は残った腕で、
わずかに金箔の禿げた、古い双機銃をコウへ向かって投げた。

「使え」

それは本当にヤバい時、いつも頼ってきた、とっておきの秘策だった。
しかし、片腕しかない今、悔しいかな…二丁の機銃を操ることは不可能だろう。
二つを交互に撃ち、威力を乗せ、強力なとどめの一撃を喰らわせる最高の相棒―――…
今の俺には、持っていても無駄なだけの代物だ。

「え…?」
「アークスなら、お前も双機銃くらい使ったことがあるだろう」

その威力と機動力についても、知ってるはずだ。
いくら使えないノロマ野郎でも、全く使えない俺が持つより、断然マシ。
しかしコウは焦ったように首を振った。

「確かに研修は受けたし、知識もある。だが、俺には無理だ!」
「何がだよ」
「銃はまともに扱ったことがない!」

…そういえば。
この男はずっと短杖を握っていたし、時々俺の刀を握ることもありはしたが……
銃を握っている姿は、ついぞ見ていない。
それは単純に、この男がテクニックに自信を持っているだけなのかと思っていたが、
どうやらそれだけではなかったようだ。

くそ、チャレンジ受けようって覚悟する前に、一通りの武器の扱いくらい慣れてから挑戦しろ!

内心そう吐き捨てる。
だが、もうすでに今更の話だ。

知識があることと、実戦で経験することは、意味が全く違う。
いくら平和な場所でぬくぬくと育った男でも、その事の重要さには流石に気づいているらしく、
必死になって首を振るが、そんな否定を受け入れてやるつもりはない。

「じゃ、俺に使えってのか? 片腕で」
「それは―――…」

使える切り札は何だって切らなければ。
…でないとこの訓練……おそらく踏破出来ずに失敗する。

「全く使えないよりマシだろうが」
「…………」

睨みを利かせた俺の言葉に、断る言葉を無くしたのだろう。
コウは困ったような視線を変えぬまま、結局銃を受け取った。


***


チャレンジ訓練最後のフィールドは、火山洞窟を模したエリアだった。
最後のインターバルを抜け、湿った地面を蹴る。

…体調は、悪くない。

重傷を負ったはずの傷はすっかり消え、全身を蝕んだ痛みは、もうその片鱗すら感じなかった。
現実ならあり得ないその様は、仮想現実さまさまだろう。
ほっと息をつき、ちらりとタイマーを見れば、予想以上に残された時間は少ないようだった。
―――…急がなければ。


暁の話によれば、最後はわかりやすく最初に立ち戻り、戦闘能力のみが試されるという。
だが、試される能力は勿論最初の比ではない。
アークスの中でも一部の許可が下りた精鋭しか足を踏み入れることが許されない
壊世地区に出没するという巨大な鳥……ヴォモスブロドシスと呼ばれるソレを、
討伐することが踏破の条件らしかった。

ヴォモスブロドシスといえば、以前の火山洞窟で、暁が注意を引いた、あの鳥だろうか。
とても勝てるとは思えないのだが―――…考えても仕方ない。
ひたすら真っすぐ伸び続ける道を走りながら、俺はそっと銃にふれた。


双機銃―――…その機動力に憧れはしたものの、アークスに入り適正調査を受けた際、
初めに受けた講習で、散々な結果を叩き出して以来、二度と触れていない武器だ。
…同じ銃というカテゴリなら、まだライフルの方が扱える。

動かない木偶人形を前に、何度も何度も的を外し、双機銃特有の強力な一撃をいつまでたっても繰り出せず、
ついには教官にさえ同情されてしまった苦い思い出がよみがえった。
それでも……やるしかないのか。

暁の傷を心配した時に返された、俺を見つめる真っすぐな視線を思い出す。
睨むでもなく、さげすむでもなく。
彼にあんな視線を向けられたことは、今まで一度たりともなかったはずだ。

多分…あれは暁の必死の強がりだったのだろう。
彼の言葉が嘘だとしても、納得するしかなかった。
そこまでしなければならない程、追い詰められた状況が今だとすれば、
俺はもう、彼の言葉に従うしかない。
たとえそれが、本来なら暁自身が使いたかったであろう彼の切り札を託される事だとしても。
それを使いこなす自信が、全くなかったのだとしても。


「くるぞ」


暁が低い声で告げる。
瞬間、火山洞窟に大きくあいた頭上の穴から、巨大な鳥が降るように降りてきた。

「まだ撃つな。ゆっくり引き付けて、ギリギリのところで撃て。
 知っての通り、双機銃の射程はそんなに長くない。びびって日和るなよ」

それ以前の問題だと思うのだが……もう抗議はおろか、愚痴を並べ立てる余裕もなさそうだ。
大きく鳥が身体をひねり、羽を伸ばす。

「っ…!」

その鳥にとって、おそらくそれは、なんてことのない…ただ羽を休める程度の動作なのだろう。
しかし、俺達にしてみれば、そんな何てことのない動作一つが、まともにぶつかれば大ダメージだ。
慌てて距離をとる。
羽を伸ばした風圧だけで、吹き飛ばされた身体が宙を舞った。
思わず銃が手から外れそうになって、俺は慌てて体制を立て直す。

「風圧だけでこれだ……なのに、接近しろって?」

無茶を言ってくれる。
普段通りの俺の戦闘スタイル…最大限に安全マージンを取る戦い方とは真逆じゃないか。
いや、そんなことはこの訓練を開始した最初からわかっていた事だったが、
それでもまだ、最初のうちはテクニックが有効だった。

「…………」

ビリビリと身体が震える。
ヴォモスブロドシスの放つ圧倒的な強者の威圧感に、出来ることなら逃げ出してしまいたい。
……逃げるって、どこにだ。クソ。

安全マージンを取る戦い方は、常に敵との距離をとり、間合いのギリギリで戦う戦い方。
……敵に接近して戦うことになれば、自然、敵の放つプレッシャーにもさらされることになる。
単純な戦闘能力だけではなく、重圧にも耐える精神力が求められる戦い方に、
果たして俺は耐えられるのだろうか?
ほんの少し、普段より距離を縮めただけで、足が震えだしてしまいそうなのに。

…いや、この広い空間を覆いつくすほどの巨大な鳥の化け物。
たとえ普段通りの戦い方ができたとしても、必要な間合いは稼げなかっただろう。
つまり、俺のコンディションが変わろうが、状況は何も変わらなかった。

「まずは羽を折る! 飛ばれちゃ手出しのしようがないからな!」

そう言って暁はヴォモスブロドシスの攻撃を器用に避けると、
片手だけで刀を握って降りぬいた。


***


アークス特有のフォトンをまとったその刀は、純粋に鉄だけで打たれた刀と比べれば幾分軽い。
だが『刀』としての役割を果たすには、やはりそれなりの重さはいるし、
重さが無ければ威力は出ない。

刀を扱うのに必要なのは、その大半が知識と技術ではあったが、それだけでなく、
ある程度の力がなければ武器としては扱えない代物だ。
だから普段、俺は両手をつかってその刃を握っていた。

けれど、今までも片腕が使えなくなることは、ごく稀にだがあった気がする。
それでもその場をしのいだのだから、今回も多分、片腕だけで俺は問題なくこの武器を扱って見せるだろう。
実際試したことはないが、確信できた。
腕がもげるってのは流石に新記録だが、どっかの誰かとは、くぐった修羅場の数が違う。


「ちっ…せめて失くしたのが左側ならよかったんだが」

刀が跳ねる。
強烈な一撃を見舞ったはずの鳥の羽には、小さな傷がついただけだった。
…刀に力が乗っていない。
左腕一本じゃ、利き腕一本と比べて力加減は数段劣ると覚悟してはいたのだが……これほどまでか。

もしかしたら、左右逆……普段と違う動きをしなければ攻撃できない武器のせいもあるのかもしれない。
怠慢だな、と苦笑する。
自分でこの訓練を侮るなと言っておいて、その実ある程度慣れてしまったチャレンジを
心のどこかで舐めていたのかもしれない。
でなきゃ、こういう事態も想定して、何が起こっても戦い抜ける訓練を日頃から積んでいた事だろう。
俺もまだまだ考えが甘い。


俺の刀が跳ねた瞬間、間髪入れずコウがテクニックを放つ。
それは、コイツから放たれるテクニックの中で、初めて見る氷のテクニックだった。
冷気をまとったそれは、ヴォモスブロドシスが苦手としているものの一つであるらしい。
…生意気にも、知識だけはあったのか。

身体が多少この訓練に慣れたのか、ようやく一通りのテクニックを扱えるようになったらしいコウは、
僅かについた小さな傷を少しでも広げるように、何本もの鋭い氷塊を、
ヴォモスブロドシスめがけてぶちかます。

だが、テクニックの第一適正が炎と言ったこの男にとって、真逆の属性…氷は元々苦手らしい。
そんなことは一切口にしなかったが、その技は、
過去にテクニックが得意だとぬかした別の訓練者の……中でも氷適正が高いと自慢していた
いけすかない女の技と比べると、天と地ほどの差がうかがえる。
ようするに、ヴォモスブロドシスにとって、苦手なはずのその技が、かすり傷にしかならなかった。

となれば、おそらくは第二適正の光と真逆の闇のテクニックも苦手なのだろう。
強力なダメージを叩き出せるナ・メギドなんかをぶちかましてくれりゃ、
少しは状況もマシになるってもんだが……それを放ったところで、おそらく大したダメージになりはしない。
本当に戦うことに向いていない男だな、とつくづく思う。


「せめてブレードがにぎれりゃ、丁寧に解体してやれたんだが」

二本の剣を舞うように扱うデュアルブレード。
その威力の高さから、前線へ出るアークスにも高い人気を誇っている近接武器。

今まで結構世話になったその武器を、たぶん俺は二度と握れないだろう。
…アークスの武器は、総じて機動力の高いものほど両手がふさがれるらしかった。
仮にもし、今目の前にソレがあったとしても、片腕だけじゃどうしようもない。


攻撃を重ねる。

今手持ちでできることといえば、傷を広げてダメージを蓄積させる事だけだ。
コウに渡した双機銃だけが、唯一勝利へのカギを握っているが、
あの男の不安そうな顔を見るに、いきなりぶっぱなすのは分の悪すぎる賭けだろう。
せめて羽を折り、動きをある程度制限してからだ。
何せ最後の切り札……慎重なくらいが丁度いい。

…もっとも、それもいつまで持つかはわからないのが怖いところなのだが。
果たして、この鳥野郎の羽を折るまで、俺達が一度も攻撃を受けずにやりすごせるだろうか?
コウはまず無理だ。
かといって、俺がこの鳥の注意を引いたところで、いったいどれほど持つだろう?
15分くらいは時間を稼いでやれるだろうが、じり貧だ。


ゴギャアアアアアアアアアアアアアアア…!!!!

低く鈍い鳥の声。
蓄積され始めたダメージが気になり始めたのか、
最初羽虫を払う程度だったその動作が、明確な敵意を持って俺を捉える。

「ぐあっ!!!」

瞬間、強烈な尻尾の一撃。
身体をひねり、刀を降りぬいて衝撃を殺すが、思いの他鈍く重い振動が伝わって、
俺はとっさに握った刀から手を放す。

―――…同じミスは二度とごめんだ。
左腕まで亡くすわけにはいかない。

案の定、離した刀は勢いよくグルグルと宙を舞った。
手を放していなければ、今頃残った俺の腕も一緒に飛んでいた事だろう。
肝が冷える。

だが、そんな想像に怯えている余裕はない。
刀を手放し、武器が何一つ無くなったこの状態で、ヴォモスブロドシスの敵意は俺へ向いたまま……
くそ、せめて何か武器はないのか?!

とっさに辺りを見回す。
ヴォモスブロドシスが俺へめがけて吐き出す炎の塊を寸でのところで横に避け、
そこでガツンと何かが足に当たった。

ここで力尽きた誰かの持ち物か……いや、ヴァーチャルにそんなもの残りはしない。
単純に訓練者への補給物資として置かれていたのだろう、古く安っぽいガンスラッシュが目に入った。

「クソが! もっとマシな補給はなかったのか!」

思わず悪態をつく。
一目見てわかる粗悪な作りに眩暈がした。
生死のかかった状況で、こんな危ないものに命を預けて戦えない。


「解体はもう無理だ、コウ!!!」


もう出し惜しみは無しだ。
俺は腹の底から声を上げた。


***


名前を呼ばれる。
否定を許さないその声に、俺は観念して双機銃を構えた。
…いや、多分呼ばれなくても構えただろう。
暁の刀ははるか遠くへはじけ飛び、今の彼は丸腰だ。

―――…もう、飛び出して彼を庇ったりはしない。

俺があの鳥の注意を引き、とどめを刺す。
それで終わりだ。

まずは一発。

パンッ…軽い破裂音。
暁に注意を向けていたヴォモスブロドシスの足が止まる。

次いでもう一発。

双機銃から放たれる破裂音のすぐ後に、ドスッという、ヒット音。
ヴォモスブロドシスの身を小さく削ったその弾で、巨大な鳥の敵意は完全に俺へと向いた。

「一気に畳め!」

暁の怒声。
それにあわせて、双機銃の機能を開放する。
キンッ…安っぽい金属音がはじけて、ヴォモスブロドシスの身体にフォトンでできた小さなリングが浮かび上がった。
まずは成功…内心ほっとする。

リングで固定されたターゲットへ攻撃を叩き込むほど、
とどめの一撃の威力を何倍にも引き上げる双機銃最大の機能。
難点が一つあるとすれば、それは永続的でないということなのだが、
どうせ俺達に残されている時間もさほどない。
浮かび上がったリングの中へ、ひたすら銃を打ち込んだ。

チャレンジ訓練踏破までに定められた時間。
それを示すメーターが細く短くなっていく。
俺は慎重に距離をつめ、一気に腕を振り上げた。

「これで……トドメ!」

双機銃の強力なフォトンアーツ。
それを最後に見舞ってフィニッシュ。

……する、はずだった。



「……嘘だろ?!」



強力なフォトンアーツ。
最後の一撃。
全力で打ち込んだその攻撃が、天へ飲まれていく。



―――…外した。



いっそ清々しいほどに。

元々双機銃は得意ではなかった。
そんなことはわかっている。
だから慎重に動いたつもりだった。

だっていうのに…!!!

何も、運命を分けるようなこの瞬間に、そんなミスはしなくてもいいだろうが!
無情にも、稼いだチェインが霧散して、浮かんだリングが消えていく。
頭が真っ白になった。


だってこれは最後の切り札で―――……


ヴォモスブロドシスの敵意が抵抗する術を失った俺へと降り注いだ。
ちらりと目に入った制限時間を表すタイマーが点滅する。
ヤバい、こっちも時間切れか。
仮にこの鳥からの攻撃を避けきったとしても、きっとたぶん、間に合わない。

明確な形を帯びて迫る死の予感に、俺は呼吸をすることさえ忘れて……
その刹那。


「これで大人しく床でおねんねしてな!」


俺の顔面すぐ横を、細身のナイフが掠めた。

「…え?」

放たれたそのナイフが、小さな爆発音を上げて、硬い鳥の頭部…
ちょうど眉間の中央に、深々とめり込むように刺さる。
一瞬遅れて、ドンッと再び爆発音。
やがて丸焦げになったナイフがカタリと音を立てて転げ落ち、次の瞬間、
ヴォモスブロドシスの巨大な体が地面に沈んでいた。



CONGRATULATIONS!



視界が、一瞬にして白く染まる。

―――…素晴らしい成果です。
次の瞬間、浮かび上がる文字とともに、頭の中で声が響いた。
チャレンジを開始した時のアナウンスと全く同じ声。
残されていた1ミリもないような制限時間を表すメーターが、氷のように解けていく。

「終わった、のか……?」

答えを求めたかったわけではなかったが、この状況が信じられず、呆然と問う。

俺の問いの答えの代わりに、霧散したヴォモスブロドシスから、
丸焦げになったナイフがガチャリと音を立てて転がった。


「―――…ガンスラッシュ?」


それは、アークスの誰もが扱える馴染み深い武器。
しかし、それゆえにこれといった特筆すべき長所もなく、
武器が壊れたときの保険として持つ程度の、特別有名でも何でもない物。

「かなり安物だがな」

丸焦げになったソレをしり目に、鼻で笑う。

「よぅ、ノーコン。よくも最後の切り札を盛大に外してくれたなぁ?」
「…言葉もない」

ガンスラッシュを放った主……暁が、呆れたように俺を見た。

「まぁ正直期待はそんなにしてなかったが…まさかフィニッシュを外されるとは」
「悪かった」

…本来、「悪かった」では済まされない。
そういう失態だった。
この言葉が言えるのは、訓練が終わったと実感できる今だからだろう。

「それで最後に頼るのが、こんなクソみたいな粗悪品になるとも思わなかった」
「…………」
「とにかくまぁ、お疲れさん」
「あ、あぁ……」

言葉を返せないでいる俺に、暁が片方だけになった手を差し出した。
想定していなかった反応に、一瞬だけ戸惑う。
ゆっくり手を差し出すと、強くその手を握り返された。
互いの勝利を称える、固い握手。
思いの外強く握り返された手が、少し痛い。
そんな痛みと、手から伝わる彼の体温に、ようやく現実味が増してきた。

踏破……できたのか、本当に。


「こういう安物のガンスラッシュは、銃の部分がすぐ暴発する。
 怖くてとても使えたもんじゃない」

交わした手を放すと、暁が大きく息を吐いて、丸焦げになったソレを蹴り飛ばした。
ガツンと音を立ててはじけ飛ぶ黒い塊は、やがて霧のように消えていく。
…そういえば、武器も仮想だったのかと、今更ながら思い出した。

「―――…が、逆にすぐ暴発するもんで、こういう使い方もできたわけだ」
「…爆発させるって使い方の事か?」
「切りつけて、爆発。
 まさにガンとスラッシュ…一体技だな。下手な手榴弾より使えるぞ」

爆発は、銃としての使い方ではないだろう。
出かかる言葉を飲み込む。
いちいち気にしていてもしかたない。
これはいつもの、もう耳にたこができるほど聞き飽きた、暁の皮肉だ。

細身といってもそれなりの質量を持つ武器。
それが体内から爆発するかと思うと、確かにゾッとしない。
その威力は、くしくも倒れたヴォモスブロドシスが証明していた。

「いざって時はお前も試してみたらいい。
 もしかしたら、今回みたいに生死を分けることもあるかもな」

そんな状況に遭遇したくないのだが……。
暁の言葉に、俺は曖昧な笑み返した。



「戻るぞ、あの閑散とした、生暖かい現実へ」
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ブログを拝見しました

こんにちは。
スペースお借り致します。

お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3~30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
ネットでのやりとりも楽しいですが、ぬくもりが伝わるアナログでの活動は温かい気持ちになり、楽しさや幸せをより感じられます。
イラスト・詩・漫画・小説・エッセイなどジャンルを問わず何でも掲載しています。
月刊で150ページくらい。全国に約180人の会員さんがいます。
あなたがブログで発表している作品を雑誌に掲載してみませんか?
東京都内で集会も行っています。お友達や創作仲間作りにご活用下さい。

興味を持たれた方には、現在雑誌代と送料とも無料で最新号をプレゼントしています。
よろしかったらホームページだけでもご覧になって下さい。
ホームページにある申込フォームから簡単に最新号をご請求出来ます。
http://www2.tbb.t-com.ne.jp/hapine/

これからもブログの運営頑張って下さい。
失礼致しました。

Re: ブログを拝見しました

丁寧なコメントありがとうございます。
(失礼ながらコピーメッセージのような気がしないでもないのですが…)
ブログを見ていただければわかる通り、当ブログは「PSO2」というオンラインゲームを題材に扱ったブログです。

こちらで公開している小説は、オリジナル設定を多分に含んでいるとはいえ、
全て「二次創作」にあたるものですので、公式が許可していない場での公開はするつもりがございません。
私自身は、こことは別の場所、別の名義で完全に個人の創作活動を行ってはおりますが、
雑誌に掲載して皆様が楽しめるような形での創作活動は行っておりません。
申し訳ないですが、折角お誘いいただいても色よいお返事はできないかと思います。

コメント、ありがとうございました。
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名前 :コウ
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Ship :10(現在8に旅行中)

チーム10:Rosen Kreuz(マネ)
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ガンナーに憧れつつ、
主にテクターやってます。
サブFoからSuに転向しました。
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マトイちゃんとリリーパをこよなく愛す、
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